止まらない少子化、効果的な子育て支援はあるの?

近年、少子化だと騒がれていますが、果たして効果的な子育て支援が実施されているのでしょうか。

これから子育てを始める方・現在子育て中の方はもちろん、子育てする職場の仲間をどのようにサポートすべきか悩んでいる方もいるかもしれません。

そこで今回は、東京未来大学の井梅由美子先生に子育て支援の具体例や課題、子供と接するときに大切なことについて、お話を伺いました。

金銭的・心理的な子育て支援を行政、職場が推進している

ナレッジアート(以下KA):まず初めに、「子育て支援」とは具体的にどのようなものを指し、どのように利用できるのかについて教えていただけますか?

井梅氏:「子育て支援」という言葉自体は非常に幅広い概念で、一言で定義するのは難しいのですが、大きく分けると、行政による経済的な支援と、子育てに関する環境整備や心理的なサポートの二つの側面があると考えられます。

経済的な支援としては、例えば児童手当や最近では、高校の無償化についても話題になっていますが、こうしたさまざまな支援が挙げられます。これは少子化が進む中で、子育て世代の経済的負担を軽減するために導入されてきました。しかし、子育ての不安は経済的な不安だけではありません。経済的支援を増やしても少子化の進行が止まらないという現状もあり、難しい問題です。

そのため、子育ての不安を取り除き、育てやすい社会をつくることが重要になっています。育児不安を解消する心理的なサポートも必要で、その部分が私たちの専門分野に関係してくるところだと思います。

KA:確かに、経済的な支援だけでなく、心理的なサポートや環境整備も重要ですね。企業の取り組みについてもお聞きしたいのですが、例えばリモートワークの導入や育児休暇の充実といった動きは、子育て支援の一環として捉えられるのでしょうか?

井梅氏:はい、それも重要な子育て支援の一環だと思います。特に、働き方と家庭のバランスをどう取るかが大きな課題になっています。

現在、男性の育児休暇取得が推奨されており、政府も積極的に推進活動を行っています。実際、共働き世帯が増える中で、「母親だけが育児を担うのではなく、父親も積極的に関与する」という意識が広まりつつあります。ただし、男性の育児休暇取得は短期間にとどまっているケースも多く、制度の定着が課題となっているのが現実です。

また、企業によるリモートワークやフレックスタイム制度の導入も、育児と仕事の両立を支援する重要な要素です。行政や企業が協力しながら、子育てと仕事を両立しやすい環境を整えていくことが、今後の子育て支援において重要なポイントになるでしょう。

ジェンダーに関する意識と制度にギャップがある

KA:次に、近年の子育て支援における新しいトレンドや、最近注目されている取り組みについて教えていただけますでしょうか。

井梅氏:新しいトレンドかは分かりませんが、子育て支援のもう一つの重要なテーマとして、育児不安への心理的サポートが挙げられます。育児不安は、1980年代ぐらいから注目されるようになりましたが、これは、ライフスタイルの変化によって、子育て環境が急速に変化したことが関係しています。子育ては本来、地域社会の中で、親だけではなく多くの大人が関わって営まれるものでしたが、昨今、地域のつながりが希薄になる中で、子育てにおいて周囲に誰も頼る人がいない、親子が孤立する状況が生じています。

こうした社会の変化が育児不安の増加と関連しており、子どもを育てることに困難を感じる要因になっていると思われます。また、昨今では、SNS等の普及により、子育てに関する情報があふれ、かえって不安を感じる人もいるでしょうし、SNSの誹謗中傷の話題をよく聞くことから、子どもとの関わりでも、ちょっとした自分のふるまいが批判されるのでは、と不安になってしまうことも多いと思います。こうした不安を取り除くことが、子どもを持とうという気持ちになるかどうかに影響を与えていると思われます。

子育て家庭の孤立を防ぐ取組みとしては、例えば「子育てサロン」や「子ども家庭支援センター」、「ファミリーサポート」など自治体における取り組みもありますが、社会全体で子育てを応援する風土を作ることが、子育て支援と言えるのではないでしょうか。

また、先ほども述べたように、働き方と子育てのバランスをどのように取るかは、企業でも重要なテーマになっています。ジェンダーバイアスや多様性の問題が社会全体で大きく取り上げられていますよね。特に日本では、女性の社会的地位が低いことが国際的にも指摘されており、この点の変革が必要だと認識されています。こうした背景の中で、育児だけでなく家事全般においても、仕事とのバランスが重要なテーマであると考えます。

また、新型コロナウイルスの影響で在宅勤務が普及し、働き方の多様化が進みました。在宅勤務には子育てとの両立という点でメリットもあり、ここ数年で状況が大きく変わってきていると感じます。

KA:社会全体として子育て支援をより良くするために、先生のご見解として「こうした方がよいのでは」と考える改善点はありますか。

井梅氏:子育て支援の改善にはさまざまな視点がありますが、現在はまだ試行錯誤の段階だと感じています。多くの人が「何とかしなければ」と考えつつも、明確な答えを見出せていない状況ではないでしょうか。

また、制度の整備が進む一方で、人々の意識がそれに追いついていないことも課題の一つと考えます。例えば、ジェンダーに関する意識の変化について考えると、会社で男性の育休取得が推奨されているところも増えてきていますが、上司の中には「制度だから仕方ない」と思いつつも、内心ではまだ違和感を持っている人もいるかもしれません。このような意識と制度のギャップが現状の課題といえます。

とはいえ、こうした変化は時間をかけて定着していくものです。現在は過渡期ですが、価値観の変化が進めば、男性の育休取得や家庭での役割分担が当たり前になっていくのではないかと思います。今後の社会の変化がどのように進むのか、非常に興味深いですね。

子供に「ありのままのあなたが大切」と伝える姿勢が重要

KA:では、子どもとのコミュニケーションを円滑にする具体的な方法や、親が意識するべきポイントについて教えていただけますでしょうか?

井梅氏:これは年齢によっても違いはあると思いますが、基本的に大事なことは、「子どもは自分とは別人格」であることを忘れないことです。どうしても親子関係は近くなりすぎるので、子どもの未熟な部分を改善しようと過干渉になってしまいがちです。自分が育てているのだから、自分と同じ考えを持っていて当たり前だ、と思ってしまいがちですが、子どもは自分とは別であること、子どもを一人の人格として尊重することが重要です。

また、子どもとのコミュニケーションで大事なこととして、「わたし(I)メッセージ」と「あなた(You)メッセージ」というものがあります。「わたしメッセージ」とは、「わたし」を主語にした伝え方で、「あなたメッセージ」は「あなた」を主語にした伝え方です。

例えば、子どもの部屋が散らかっているときに「(あなたは)まだ片づけしていないの!?」と言うのは、「あなたメッセージ」です。あなたメッセージは、相手への非難や命令が含まれるメッセージとなりがちです。一方、「わたしメッセージ」は、「(わたしは)部屋が片付いていると気持ちがいいな」とか、「(わたしは)片付けてくれるとうれしいな」と伝える方法です。このように、「あなたが〇〇できていない」ではなく、「私はこう感じている」と伝えることで、子どもが自発的に考え、行動しやすくなります。

「あなたメッセージ」は相手を非難や評価する形になりがちなので、子どもにとってはプレッシャーやストレスになりやすいですし、自主的に動く気持ちが損なわれることが問題点ですね。

KA:「わたしメッセージ」は自分の考えを伝える方法で、「あなたメッセージ」は相手を評価するような伝え方なのですね。ところで、子どもを評価することの問題点は何ですか?

井梅氏:評価することには、ポジティブな評価もネガティブな評価もあります。「ダメな子ね」という評価は、ネガティブな評価ですから子育てにおいて良くないことは想像しやすいと思います。けれども、ポジティブな評価も、場合によっては注意が必要です。

例えば、「褒める」ことについて、「子どもを褒めて伸ばしましょう」と言う言葉はよく聞くと思います。子どもにとって、大好きな親から褒められることは、うれしいものです。ダメ出しをするより、褒めた方が良いことはもちろんなのですが、「〇〇ができたら褒める」という形を繰り返すと、子どもは「できないと嫌われるのでは?」と不安を感じることがあります。褒めることは大事ですが、それが評価として伝わりすぎると、子どもが「頑張らなければ価値がない」と感じてしまうこともあるのです。

「〇〇ができて偉いね、いい子ね」という言葉は、「できなかったらダメ」というメッセージも含んでしまうのです。子どもは「〇〇できるあなたが好き」という条件つきの愛情ではなく、「どんなあなたでも好き」、「ありのままのあなたが大切」というメッセージを望んでいるのです。頑張ったことを認めるのはよいですが、「できたから偉い」という伝え方ではなく、「あなたの存在自体が大切なんだよ」と伝えることが、子どもの健全な自己肯定感につながります。

KA:反対に、親が子どもを好きすぎて、過保護になってしまうケースもあると思います。それによって子どもがストレスを抱えることもありますが、そういった場合、親はどのように改善すればよいのでしょうか?

井梅氏:親が子どものことを好きすぎることは悪いことではないと思いますが、過保護や過干渉の問題はよく相談されます。親は「子どものために」と思って行動しますが、それが子どもにとって負担になる場合もあります。

大切なのは、子どもが本当に援助を必要としている時に手を差し伸べることです。例えば、子どもが困っている時にサポートするのは重要ですが、必要ない時にまで手をかけると、自立の妨げになります。

また、親の「こうなってほしい」という思いが強すぎると、子どもにとっては「親の期待に応えなければならない」という重荷になってしまいます。適度な距離感を保つことが、子どもにとっても親にとっても良い関係を築くポイントになります。

KA:最近、ニュースなどで小中学校でのいじめ問題も大きく取り上げられています。いじめに直面した際の親としての対応について、どうお考えですか。

井梅氏:いじめは子どもにとって非常に深刻な問題です。親としては、まず「子どもが話しやすい環境を作ること」が最も重要です。子どもは「親を心配させたくない」と思ってしまい、いじめを隠すことがあります。そのため、普段から「どんなことでも話していいんだよ」という安心感を持たせることが大切です。

また、いじめが発覚した場合は、すぐに感情的にならず、子どもの話をしっかり聞くことを優先しましょう。そのうえで、学校や教師と連携し、冷静に解決策を探ることが重要です。

無理に「こうしなさい」と指示するのではなく、子ども自身の気持ちを尊重しながら、最善の方法を一緒に考えることが大事です。また、親自身が冷静でいることで、子どもも安心して相談しやすくなります。

KA:親としてはすぐに行動したくなると思いますが、まずは子どもの話を聞くことが大切なのですね。いじめの対処法として、他に意識すべきことはありますか?

井梅氏:いじめは子どもの自己肯定感を大きく損なうものです。そのため、家庭では「あなたは大切な存在だよ」と伝え続けることがとても重要です。親が味方であることを実感できると、子どもも前向きな気持ちを取り戻しやすくなります。

また、必要であれば専門機関やカウンセラーに相談するのも一つの方法です。親だけで抱え込まず、適切な支援を受けることも大切です。

KA:いじめの問題はデリケートですが、親の関わり方が子どもの心の支えになるのですね。

親も子供と一緒に成長していくという意識で子育てを楽しもう

KA:子育て中の親や、これから子育てをしようと考えている方々に向けて、アドバイスをお願いできますでしょうか?

井梅氏:子育ては大変なことも多いですが、それと同時に、自分自身を成長させてくれる楽しい経験でもあります。「子育て支援」という言葉が多用され過ぎると、どうしても「子育ては大変だ」ということがクローズアップされがちですが、「楽しいこともたくさんあるよ」ということをぜひ伝えたいですね。

また、「子育ては自分育て」とよく言われますが、本当にその通りで、子どもと一緒に親も成長していくものだと思います。子どもの1歳は、親としての1歳でもあります。お母さんやお父さんも、子どもとともに成長していくんです。

だからこそ、あまり気負いすぎずに、「一緒に育っていけばいいんだ」と思ってもらえたらいいなと感じます。私自身も2人の子どもの子育ての最中ですが、子育てを通してさまざまな人に助けていただいたり、失敗もしたり、試行錯誤しながら子どもと一緒に育ってきたなと実感しています。子育ては大変なこともあるけれど、楽しくて、かけがえのない経験なんだということをお伝えしたいですね。