変わりゆく時代の大学英語教育──“国際化”と“AI共生”の未来

変わりゆく時代の大学英語教育──“国際化”と“AI共生”の未来

現代社会において、英語は単なる外国語の一つにとどまらず、国境を越えて人と人をつなぐ「共通語」としての役割を強めています。特に大学教育の現場では、グローバル化の進展やAI技術の急速な発展を背景に、従来の語学教育の枠を超えた新しいアプローチが求められているようです。

そのような中、東洋大学は文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援事業」に選定された実績も持ち、「国際化の推進」と「実践的な英語力の育成」を両輪に据え、多様な学生が交わる環境を活かした先進的な英語教育を展開しています。

今回は、東洋大学の久世恭子先生に、大学全体の英語教育の特色から、AIと共存する未来の語学教育のあり方、そして英語を学ぶ学生や社会人への具体的なアドバイスまで、幅広くお話を伺いました。

東洋大学の英語教育と国際化戦略

ナレッジアート(以下KA):まず初めに、他の大学と比較して、東洋大学の英語教育の特徴や強みについて教えていただけますでしょうか。

久世氏:東洋大学は14学部を擁する大規模な私立大学で、英語教育は各学部ごとに行われています。基礎力をさらに発展させ、実際に使える英語を教えたり、学生さんの専攻や将来の進路に役立つような英語を教えたりするためのカリキュラムを組んでいます。

全学的な強みとしては、やはり国際化の推進が挙げられるかと思います。本学は2014年に「スーパーグローバル大学創成支援事業(SGU)」のタイプBに採択され、10年間にわたり急速な国際化を進めてまいりました。

その結果、トップ層だけでなく中間層の学生さんに至るまで幅広く育成する、つまり、全学のグローバル化構造をピラミッド型からダイヤモンド型へと変革を行ったという点が評価され、文部科学省より「総合判定A」という評価をいただいています。

KA:先生が担当している経営学部の授業から、国際化の例を挙げていただけますでしょうか。

久世氏:現在、私が担当している選択科目の例ですが、履修生の約50%が日本人、約25%が長期の留学生で日本語がある程度わかる方々(主にアジア系)、そして残りの約25%が短期留学生で日本語をほとんど話さない方々(ヨーロッパ各国からの留学生)という構成になっています。

こうした異なるバックグラウンドを持つ学生さん同士が授業を通じて交流し、多様な考え方を学ぶ意義は非常に大きいと感じています。実際、日本人の履修生からも、授業をきっかけに長期留学を考えるようになったという声を毎年聞いています。

KA:英語教育全体の中で、特にどの分野に最も力を入れているのかお聞きしたいです。たとえば、スピーキングやライティング、あるいは留学支援など、具体的にどこに重点を置いているのでしょうか?

久世氏:全学的にはやはり「国際化の推進」が大きなテーマですので、留学支援には力を入れています。

これは、日本人学生を海外へ送り出す取り組みと、海外から学生を受け入れる取り組みの両方を指していますが、日本人学生の留学に関しては、ただ送り出すだけではなく、留学前後にその経験を最大限に活かすためのプログラムが用意されています。私は、この点が非常に重要だと考えています。

日本の大学英語教育が直面する課題

KA:続いて、日本の大学における英語教育の課題について、教えていただけますでしょうか。

久世氏: まず第一の課題は、テクノロジーへの対応です。特にAIの出現によって、テクノロジーとどのように共生していくかという視点がますます重要になってきていると感じています。社会全体の仕組みが変化しつつある現在、英語教育の分野でもデジタル化は学会のテーマとして頻繁に取り上げられていますし、研究発表でもAIに関するものが急増しています。

おそらく、今、最も注目されている研究は、「英語学習においてAIをいかに活用するか」、つまりAIにどのようにアシストしてもらえば、より効率的に英語学習を進めることができるのか、という点かと思います。しかし、授業を担当する教員の立場からすると、日々の授業の内容や学習者の評価の仕方も従来の方法から変える必要があるように感じています。

さらに、将来的な課題として、「英語によるコミュニケーションのどの部分を人間が担うのか」、すなわち、どの部分をAIに任せ、どの部分を人間が行うべきかという問題があると考えています。結局、人間にしかできない部分に焦点を当てて教育を行っていくことになると思いますが、AIが日々進歩しているため、この問題は大変複雑です。

もちろん、これらの課題は教育分野全体に共通するものですが、外国語学習の分野は、以前から機械翻訳の利用などを通じてテクノロジーの影響を強く受けてきた背景があるため、特に注目が集まっているのかもしれません。

KA:たしかに、AIが普及する前と今とでは、学習スタイルも大きく異なりますよね。次に、二つ目の課題をお聞きしてもよろしいでしょうか。

久世氏: 大学英語教育の課題として挙げたいのは、多様な種類の英語、あるいは異なるレベルの英語を教えることが求められている点です。基礎的なレベルでは、英語の基礎学力を補強する、いわゆるリメディアル教育が必要となる場合がありますし、同時に、実社会で使えるコミュニケーションに即した英語も教える必要があります。

さらに、学術的な内容を理解・発信するための英語、EAP(English for Academic Purposes:学術目的の英語)や、自分の専門分野で用いるESP(English for Specific Purposes:特定の目的のための英語)なども含まれます。これらを社会のニーズや個人の関心を踏まえて、カリキュラムの中にバランスよく組み込んでいくことが求められています。

最後に三つ目の課題ですが、昨今、就職活動の早期化・長期化に伴う大学教育の形骸化、そして学習意欲の低下が指摘されています。これは英語教育に限らず、大学教育全体の問題でもありますが、英語教育に特化して申し上げますと、学生さんにとって長期留学が非常に難しくなっているという現実があります。

就職活動やインターンシップとの両立が難しくなっていることから、長期留学が実現しづらくなっており、これは英語教育に直接影響を及ぼす問題となっているのです。

テクノロジー活用の展望と人間らしいコミュニケーションの重要性

KA:日本の教育における今後の展望について、お聞かせいただけますでしょうか?

久世氏:先ほどのお話と重複しますが、第一に挙げられるのは、やはりテクノロジーやAIとの共生、あるいはそれらへの対応です。AIの利点をうまく活かした英語教育が、今後ますます求められると考えています。

また、新たな展望として申し上げたいのは、国内で可能な国際的な経験の推進です。もちろん、海外に渡航できるのが理想ではありますが、円安や国際情勢の不安定さなどから、それが難しい場合もあります。しかし現在では、多くの外国人が日本に居住していたり、旅行や留学のために訪れたりしており、国内にいながら国際的な体験を日常的に得られる時代になっています。

こうした方々との英語を使った交流は、教育の貴重なリソースとして活用できると思います。実際、私自身も授業の中にこのような環境を活かした活動を取り入れていますが、今後はより組織的な取り組みが求められていくと考えます。

英語学習においては、学習者のモチベーションが非常に重要ですが、国内で得られる国際的な経験は、そのモチベーションを高めることにつながります。

KA:先ほども課題や今後のテーマとしてAIやテクノロジーへの対応が重要とおっしゃいました。一方で、AIやテクノロジーの進化によって、将来的に英語教育そのものの必要性がなくなる可能性については、どのようにお考えでしょうか?

久世氏:非常に重要な問題ですね。私はAI等の専門家ではないので、あくまで一般論になってしまいますが、現時点では、AIはまだ人間が持つ創造力、イマジネーションや共感といった部分において劣っていると言われています。ただし、テクノロジーは日々進化しているため、今後どこまで人間の代わりができるようになるのかは、もはや予測がつかない状況です。

ご指摘の通り、英語教育、あるいは外国語教育そのものの意義が問われる時代が来る可能性も否定できないと思います。もちろん、私はその意義が今後も続いていってほしいと願っていますが、たとえばAIを通じて異なる言語を話す人同士が瞬時にコミュニケーションが取れるようになると、外国語教育の意義についての再検討が必要になるかもしれません。

KA:ありがとうございます。AIの利点を活かして英語力を身につけていくことは重要だと思いますが、一方で、AIやテクノロジーに頼っても身につけにくい英語力があるとすれば、それはどういったものでしょうか?

久世氏:現時点では、読む・書くといった活動は、発信者と受信者の間にタイムラグが生じますので、比較的AIを介して行いやすいと考えられます。

しかし、言葉のやり取りというのは当事者の人格を反映するものですから、その全てをテクノロジーで置き換えられるとは到底思えません。その場に即した雰囲気で言葉の微妙なニュアンスを伝えながら会話すること、また、新たな視点や発想を取り入れて議論を深めることなどは、今のところ、人間同士のコミュニケーションでこそ可能であるように思います。

伝えることの大切さと、間違いを恐れない心構え

KA:英語を勉強中の学生や社会人の中で、「これから英語を勉強したい」という方に向けて、アドバイスをいただけますでしょうか?

久世氏:はい。それでは、「どのように勉強するか」と「何を目指すか」という二点に分けてお話ししたいと思います。

どのように勉強するか

久世氏:やはり英語に触れる時間を長くすることが基本だと思います。英語は言語ですので、それに触れている時間が短ければ上達しませんし、近道もありません。

日常的に英語で活動できる環境がある方は良いのですが、そうでない場合には、自分でその時間を作る必要があります。たとえば、好きな英語の映画を見ること。特に、同じ場面を繰り返し見て、セリフを言えるレベルまで覚えるという方法もあります。また、通勤途中に海外ニュースを毎日チェックするのも良いと思います。読む・聞くの両方のやり方があると思いますが、ただ何となく読む、聞き流すのではなく、語彙や表現を意識的に覚えていくという姿勢が必要です。

KA:映画には日本語訳があるものと、ないものがありますよね。実際に英語力を身につけたい場合、どちらの映画を見るべきでしょうか?

久世氏:音声については、常に英語で聞いた方がよいと思います。学習目的で映画を使う場合、最初から字幕なしで理解するのは難しいと思いますので、まずは英語音声+日本語字幕で見てストーリーや状況を把握した上で、次に英語音声+英語字幕に切り替えて、セリフを自分でも言ってみることが大切です。

受動的な視聴ではなく、一緒に発音してみて、リズム感をつかむこと。これを何度も繰り返して、そのセリフが言えるようになったら、最終的には字幕なしで聞いてみる。そうすることで、リスニング力も高められると思います。

KA:ありがとうございます。他におすすめの勉強法があれば教えてください。

久世氏:英語の本を読むこともお勧めします。辞書を引きながら精読するのも勉強になりますが、比較的やさしい本を多読することも英語力の向上につながります。ストーリーがあると先の展開が気になって読み進めたくなりますし、想像力を働かせたり自分なりに解釈したりするのも楽しい作業です。

重要なのは基礎をしっかり身につけることです。ここでいう基礎とは、基本的な語彙や文法のことです。定型文を覚えるのも大切ですが、それだけでは会話が続かないという事態になりかねません。基礎がしっかりしている方は、その後でスピーキングの練習をしても上達が非常に早いですし、自分で文を作るという応用ができるようになります。基礎力が後の英語力の伸びに大きな差を生むことをお伝えしたいと思います。

また、可能であれば、やはり海外に出て、一定期間その環境に身を置いて現地の人と交流するという経験も有効です。これは英語能力の向上に役立つだけでなく、異文化理解や多様性への気づき、日本社会や文化の理解などの点から貴重な経験となります。

その際、社会人の方であれば、帰国後にその経験をどう活かすかまで考えて出かけると良いと思います。留学の場合には、ある程度学術的な英語を学んでから行けると理想的です。

KA:ありがとうございます。英語を学ぶ際に、好きなことや趣味と結びつけると良いという話をよく聞きます。それはやはり効果的ですか?

久世氏:それはとても良いアプローチだと思います。語学学習は継続することが大切ですので、自分が楽しいと思えることや、興味のあることと結びつけると続けやすくなります。

たとえば、音楽が好きな人なら、英語の歌の歌詞を調べて一緒に歌ってみるのも良いでしょうし、サッカーが好きな人なら、試合の中継や選手へのインタビューを英語で聞いてみるのも良いでしょう。

何を目指すか

KA:続いて、勉強するうえで意識すべきことがあれば、教えていただけますでしょうか。

久世氏:勉強法として大切なのは、達成しやすく具体的な目標を持つことです。たとえば、「字幕なしで映画を見られるようになりたい」というのも一つの目標ですが、それはかなり漠然としています。毎週新しい英語映画を一本見るとか、好きな場面を繰り返し見てセリフを覚えるなど、より具体的な目標にした方が良いと思います。

旅行を計画して、現地で自力で旅行を遂行するというのも良いでしょうし、資格試験で点数を上げる、次のレベルを目指すといった目標も有効だと思います。

KA:そもそも目標を決められない場合、どのようなものを目標にすると良いですか?

久世氏:一般に英語学習の規範はネイティブスピーカーの使う英語ですが、学習者が必ずしもネイティブのような英語を話すことを目標にする必要はありません。理解できる英語、つまり「インテリジブル(intelligible)」あるいは「コンプリヘンシブル(comprehensible)」な英語を目指すことが大切です。

世界には英語を母語とする人が約4億人いますが、第二言語や外国語として英語を話す人はその何倍もいます。実際には、異なる母語を持つ人同士が英語を共通語(English as a Lingua Franca)として用いてコミュニケーションを取ることも多いのです。その場合も、理解可能な通じる英語が意味を持ちます。

次に大切なのは、これは少し英語から離れるかもしれませんが、「話す内容を持つ人」になることです。ビジネスでも研究でも、相手に「この人の話は聞く価値がある」と思ってもらえれば、多少英語が拙いような場合でも、相手は一生懸命聞いてくれます。

最後は、プラクティカルなレベルの話になりますが、どんな状況でも自分の言いたいことを、自分の持っている語彙と文法で表現できることが大切です。もちろん、伝わる英語で言うということですが、これができればビジネスでも日常生活でも基本的には対応できます。

KA:難しい単語を知っているから良い、ではなく、相手に通じることが大切なのですね。リスニングについてはどうでしょうか?

久世氏:リスニング能力も高ければ理想的ですが、世界には様々なアクセントの英語があるため、常に完全に理解するのは難しいです。ですので、自分の考えを相手に理解してもらえるレベルで表現できれば、誤解やコミュニケーションの断絶を避けることができると思います。

KA:実は、私自身、英語力にあまり自信がなくて、結果的に海外に行くのを避けてしまうというところがありまして……。どうすれば英語力を身につけて、自信を持って海外に行けるようになるのか、悩んでいます。

久世氏:そういうお話もよく聞きますね。それでもほとんどの方は学校教育で英語を勉強してこられたわけですから、例えば、中学校の英語を復習するというところから始めてみても良いかもしれません。その上で、少し荒療治ではありますが、一度海外に行ってみて現地で自分に英語力が足りないと感じたら、日本に戻ってまた勉強して、再び挑戦するというのも一つの方法かもしれません。学生さんの中にも短期で語学学校に留学して、その後、もっと勉強してから長期留学を目指す方は多くいらっしゃいます。

今は英語学習にも様々な方法があり、例えば、オンラインで学習したりAIなどを使う手段もあります。ある程度の準備をして行かれると現地での経験がより充実したものになるでしょう。

それでも、最初の一歩を踏み出すのが難しいという気持ちが残るかもしれません。もし行きたい国が決まっていれば、その国の映画などを見て文化的な状況を理解しつつ、英語にも慣れていくという方法もおすすめです。

KA:ありがとうございます。英語を学ぶ中で「完璧に話さなければ」と考えてしまい、話すのが怖くなることもあります。そうした不安をどう乗り越えるべきでしょうか?

久世氏:それはよくわかります。日本人の多くの学習者が「文法を間違えてはいけない」とか「発音が悪いと通じないのでは」といった不安を抱いています。もちろん、正確な英語が話せればそれに越したことはないのですが、だからと言って、不安が先に立ち口をつぐんでしまうというのはもったいない気がします。

KA:では、どのようなことを心掛けたらいいのでしょうか。

ある程度話す内容と英語の基礎力を持っていれば、積極的に試してみるということでいいのではないでしょうか。その際、できるだけ自分が話しやすい相手や状況、話したいと思う話題などを見つけて練習すると良いように思います。

あとは、open-mindedといいますか、母語が異なり文化的背景や習慣が違う方たちとも英語でコミュニケーションをとりたいという姿勢が大切ですね。間違えることにそこまで神経質にならずに、英語を話すことを楽しんでほしいと思います。

英語を学ぶと、世界の様々な人たちとつながることができ、自分の視野が広がって地球規模の問題や自分の国の社会・文化も良く見えるようになります。少し大げさに聞こえるかもしれませんが、これは豊かな人生を送るための一つの要素と言えるかもしれません。多くの方に、ぜひその経験をしてほしいと願っています。