近年、株式投資などを通して企業経営に関心を持つ人も増えてきています。
しかし、「コーポレートガバナンス」と聞いて、実際どのような仕組みなのか、どのような場面で活かせるのか理解できない方も多いはずです。
そこで今回は、阪南大学の中條良美教授にコーポレートガバナンスとはどういったものか、コーポレートガバナンスを取り巻く課題などについてお話をうかがいました。

中條 良美
阪南大学大学院 企業情報研究科・研究科長、総合情報学部 教授
【biography】
1975年、三重県生まれ。1998年、名古屋大学経済学部卒業。
2004年、名古屋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了(博士:経済学)。
北陸大学未来創造学部専任講師、阪南大学経営情報学部准教授、同教授を経て現職。
専門は財務会計。
著書:『経営と情報の融合と深化』(共著:2014年:税務経理協会)、『現代企業論』(共著:2008年:実教出版)など。
コーポレートガバナンスは株主の利益を最大化するのに欠かせない仕組み
ナレッジアート(以下KA):まず初めの質問として、コーポレートガバナンスとはそもそもどういったものなのかについて教えていただけますか?
中條氏:私は経済学が専門ですので、法律的な観点もありますが、今回は経済学的な視点から説明します。
そもそも、20世紀に入り企業が大規模化した背景には「所有と経営の分離」という要因があります。19世紀までは、企業の所有者と経営者は同一人物であることが一般的でした。しかし、20世紀になると株式が発行されるようになり、多くの投資家から資金を集めることで、大規模な事業が可能になりました。
この仕組みの中で、企業の所有者である株主の数が増加し、意思決定の難しさが生じました。そこで、経営のプロである経営者を雇い、株主が経営を直接行わずに企業運営を委託する形が取られるようになりました。これが「所有と経営の分離」です。
ここで問題となるのが「エージェンシー問題」です。企業の目的は株主の利益を最大化することですが、経営者が自己の利益を優先する可能性があります。この利害の不一致がエージェンシー問題であり、企業経営において不可避の課題となっているのです。
この問題を最小化するために考えられたのが「コーポレートガバナンス」です。日本語では「企業統治」と訳されます。企業を統治する目的は、株主の利益を最大化することにあります。そのために、組織のあり方や情報開示の仕組みを整え、透明性を確保しなければいけません。つまり、株主に対して企業の状況を明確に示し、経営が適切に行われているかを確認できる体制が求められるのです。
また、コンプライアンス(法令遵守)も重要な要素です。法令違反があっては意味がありませんので、コンプライアンス体制を維持しながら、株主の利益を最大化するために企業がどのような組織体制を取り、どのような情報を開示するのかを設計することが、コーポレートガバナンスの中心的な役割となります。
KA:所有と経営の分離により株主の利益が最大化されないリスクが生じ、それを最小化するための仕組みがコーポレートガバナンスなのですね。コーポレートガバナンスの目的は主に株主が利益を最大化するとのことですが、逆に株主自身がコーポレートガバナンスについて学ぶことのメリットは何かあるのでしょうか?
中條氏:株主は株主総会を通じて直接コーポレートガバナンスに関わる存在です。例えば、取締役の選任にも関わりますので、当然ながらコーポレートガバナンスに高い関心を持っています。特に近年、海外の投資家のプレゼンスが増えてきています。彼らはコーポレートガバナンスについてしっかりと勉強し、知識を深めています。
現在の株式所有構造を見てみると、外国人投資家の割合が非常に増えていることが分かります。以前は事業法人間の持ち合いが3〜4割ほどありましたが、現在は2割程度に減少しています。一方で、外国法人や海外の投資家の割合は3割を超えており、彼らはコーポレートガバナンスをはじめ企業の現況を冷静に分析した上で、株主総会で「自分たちの利益を最大化しない事業はやるべきではない」と強く主張しています。これらの投資家の行動は株価にも鋭く影響します。したがって、株主側がコーポレートガバナンスについての知識を深めることは、企業経営に大きな影響を与えるだけでなく、自身の資産運用の今後を考える上でも重要なのです。
KA:最近では株主優待を目的に株を保有する方も増えていると感じています。そのような方々はコーポレートファイナンスに関する知識を持っているのでしょうか?
中條氏: 一概には言えませんが、知識がある方もいれば、そうでない方もいらっしゃると思います。ただ、優待だけを目的として株を持っている場合、コーポレートファイナンスの仕組みにはあまり関心がないかもしれません。
先ほど申し上げた通り、株主総会に積極的に出席する株主の多くは、海外をはじめとする機関投資家であることが多いです。機関投資家は、株主総会で経営者に対して委任状闘争を行うことがあります。つまり、多くの株主から委任状を集め、自分に投票や発言を一任してもらい、総会で意見を述べるという形です。そのため、株主優待を目的に投資している方は、「自分はガバナンスに対する意見はないので委任します」というケースが多いかもしれません。
結果として、ガバナンスに直接関与する株主は一部に限られます。ただし、優待目的で投資している方も、委任という形を通して間接的にガバナンスに関与しているとも言えます。
KA:なるほど、ありがとうございます。続いて、コーポレートガバナンスを取り巻く最近の動向についても教えていただけますか?
中條氏:従来、経済学者のミルトン・フリードマンの主張にもあるように、株式会社は株主のものであり、株主の利益を最大化することが目的とされてきました。しかし、近年ではその考え方が変わりつつあります。
特に「ステークホルダー資本主義」という考え方が広まり、株主だけでなく、従業員や顧客、さらには地球環境の保護といった観点も企業経営において考慮されるようになってきました。ESG(環境・社会・ガバナンス)という概念が注目され、企業が気候変動対策などにどのように取り組むかも、ガバナンスの一環として議論されるようになっています。
このように、コーポレートガバナンスは従来の株主利益の最大化という視点に加え、より広い社会的責任を果たすための枠組みへと進化しているのです。
管理の加減でコーポレートガバナンスは成功にも失敗にもなりうる
KA:続いて、コーポレートガバナンスの成功事例と失敗事例についてお話を伺いたいと思います。具体的なケースをご紹介いただけますか。
中條氏:成功や失敗の基準が明確に定義されているわけではないので難しいのですが、一般的に評価されている事例を紹介したいと思います。
まず、「コーポレートガバナンス・オブ・ザ・イヤー」という評価制度があります。これは日本取締役協会が発表しているもので、権威ある評価の一つです。2024年の最優秀賞には、富士通とリクルートが選ばれています。
KA:この企業はどのような点で評価されたのでしょうか?
中條氏:この二社は、効率的な取締役会と組織作りを実践しており、大株主がいない点や独立取締役の比率が高い点で共通しています。また、委員会設置会社としての体制を整え、ダイバーシティにも配慮している点も特徴です。ほかにも、パフォーマンス評価の基準が明確で、審査員によるトップへのインタビュー調査でも、総合的なガバナンスの優越性が評価されました。
なお、その成果として株主の利益にどれだけ貢献しているかも重要です。例えば、富士通のROE(自己資本利益率)は13.6%で、上場企業の全社平均9.5%を上回っています。リクルートはさらに高く20.6%を記録しています。これらの数値は、リスク水準に見合ったリターンである資本コスト(富士通は7.2%、リクルートは9.8%)を上回る業績を上げている点が評価されています。
KA:海外ではどのようなROEの数値が出ているのでしょうか?
中條氏:実は、日本ではROEがあまり重視されてきませんでした。本来、企業が株主のために存在するのであれば、株主にどれだけ還元できるのかを示す指標としてROEは非常に重要です。しかし、日本では長らく個人投資家の影響力が小さかったこともあり、この指標が注目されることは少なかったのです。
例えば、私が学生だった2000年頃の日本の平均ROEはほぼゼロでした。つまり、企業が1年間営業しても、株主に対して全く利益をもたらしていないという悲惨な状況だったのです。しかし、現在では平均9.5%まで上昇しています。これはコーポレートガバナンスの改革がもたらした大きな成果だと考えています。しかし、海外では10%を超えるROEを求められることが一般的であり、その意味では日本企業にはまだROEを改善する余地がありそうです。
ROEの考え方はもともと欧米から来たものであり、ガバナンスに関する研究や取り組みは欧米の方が一歩も二歩も先を行っています。日本は最近になってようやくこの考え方を取り入れるようになりました。有名な「伊藤レポート」では、「最低でもROEが8%なければ株主のリスクに報いることにならない」と指摘されています。したがって、今後さらにROEを高める努力が必要になるでしょう。
KA:なるほど、過去に比べると日本企業でもROEが重視されるようになってきたのですね。コーポレートガバナンスが企業業績に与える影響についての研究はありますか?
中條氏:最近の研究では、コーポレートガバナンスの質を数値化し、ROEなどの企業業績との関係を計量分析したものがあります。その結果、コーポレートガバナンスが良好な企業ほど業績も高い傾向にあることが示されました。ただし、ガバナンスを強化しすぎると逆に効率性が下がるという結果も出ています。
KA:ガバナンスと効率性は相反することもあるのですね。それでは、失敗事例についても教えてください。
中條氏:失敗事例としてよく挙げられるのは、会計不正です。例えば、2011年のオリンパスの事例では、財テクの失敗による損失1000億円を海外ファンドに売却することで隠ぺいしました。また、2008年から2014年にかけての東芝の事例では、1518億円の利益水増しが行われ、原発関連の損失を隠していたことが問題視されました。いずれも経営トップの関与が疑われ、内部統制の欠陥が明らかになったケースです。
KA:コーポレートガバナンスにおける成功と失敗の違いはどこにあるのでしょうか?
中條氏:成功企業では、コンプライアンスを重視した上で株主の利益を意識したガバナンスが整備されています。一方で、失敗企業では内部統制の欠陥があり、不正が発生しやすくなっています。コーポレートガバナンスの整備が企業の業績に影響を与えることは明らかですが、過度な管理が逆効果となる場合もあります。バランスが重要ですね。
株主の利益を最大化するための「選択と集中」がカギになる
KA: では、コーポレートガバナンスにおける課題点とその改善策について教えていただけますでしょうか?
中條氏:これは多くの場面で議論されているテーマですが、私の考えをお話しさせていただきます。
まず、現在はコーポレートガバナンス・コードをはじめ、さまざまなルールが整備されています。それらのルールは、会社法や東京証券取引所の規則などに反映されています。しかし、単にこれらの規則を形式的に適用すればよいのかというと、私はそうではないと考えています。
なぜなら、企業ごとに組織特性は異なり、各企業の個性に即したガバナンス体制が必要だと思うからです。もちろん、外部に向けて「しっかりとしたガバナンスを行っています」と示すために、形式面の整備も必要です。しかし、本質的な部分に目を向けることが重要なのではないでしょうか。
そもそもコーポレートガバナンスの目的は、株主の利益を最大化することです。そのため、株主のニーズを的確に汲み取ることが求められます。これを実現するためには、企業は株主と随時対話を行い、その意見を企業経営に反映させていく必要があるでしょう。
KA:株主のニーズを聞きつつ、その企業にあったガバナンス体制が求められているのですね。では、具体的にどのように改善していけばいいのでしょうか。
中條氏:特に重要なのは経営者のリーダーシップです。日本型の組織にはさまざまな弊害が指摘されていますが、一人の経営者だけで組織を変革するのは難しいのが現状です。相当な決意を持って取り組まなければ、ガバナンスの改善は実現できません。
また、私が強調したい点として「始めるよりもやめるほうが難しい」という問題があります。どの企業でも新しいことを始める際には賛成が得られやすいですが、一度始めたことをやめるとなると、反対意見が出ることが多いのです。提案した人の責任問題なども関係し、撤退が難しくなるケースもあります。
しかし、現在求められているのは「選択と集中」です。採算の取れない事業からは速やかに撤退することが望まれますが、日本企業ではこれがうまくいっていません。私はこれを「事業再編オプション」と呼んでいます。これは、企業が不採算事業からの撤退を柔軟に行えるかどうかという裁量権のことを指します。このオプションがあるかどうかで、企業の評価は大きく変わるのです。
KA:日本企業が「選択と集中」を上手に実行できないのには、何か理由があるのでしょうか?
中條氏:特に日本企業の場合、株式の所有構造が大きく影響しています。例えば、企業同士が株式を持ち合うケースが多く、事業関係が固定化されやすいのです。一度持ち合い関係が築かれると、解消するのが難しくなります。なぜなら、株式を売却してしまうとそれまで円満であった事業上の協調関係が崩れてしまうことが懸念されるためです。結果として、日本型の事業関係は非常に緊密であり、収益性が低下した事業関係の解消が困難になってしまいます。
また、日本企業は外資によるM&A(企業買収)を嫌う傾向にあります。乗っ取りを防ぐため、さまざまな買収防衛策が講じられていますが、その一環として株式の持ち合いが利用されることもあります。このような状況では、経営者がリーダーシップを発揮し、事業再編オプションを活用するのが難しくなってしまうのです。
そこで、私が提案したいのは「経営者マーケットの整備」です。具体的には、M&Aのハードルを下げることが重要だと考えています。日本企業は海外企業の買収には積極的ですが、海外企業からの買収は極めて少ないのが現状です。これは、日本のM&Aに関する規制や慣習がハードルを高くしているためです。
このM&A環境を整備し、選択と集中を実現できるようにすることが、コーポレートガバナンスのさらなる向上に向けた重要な課題の一つだと考えています。
製造業の空洞化による雇用の減少と気候変動問題が今後の課題課題
KA: では、コーポレートガバナンスの今後の展望について教えていただけますでしょうか?
中條氏:これは本当に多くの視点から語れるテーマですが、先ほどの話にも関連させると、ステークホルダー間の利害調整をどのように深化させるのかが重要なポイントになります。
基本的に株式会社というのは株主のための会社であり、最も重要なのは株主です。しかし、近年はステークホルダー全体に目配りすべきだという考え方が広まっています。したがって、多様なステークホルダーの間でどのように利害を調整していくのかが、コーポレートガバナンスに求められる大きな課題の一つとなります。
特に私が注目しているのは、日本の製造業です。製造業の空洞化が進んで久しいですが、大企業は海外に製造拠点を移しており、日本国内の製造業での雇用は減少しています。株主の視点から見れば、企業はどこで経営しても利益を上げられればよいわけですが、日本の従業員にとっては雇用の場を失うことになります。この点が、今後ホットな議論となるのではないかと考えています。
この点については、財務諸表を見てもわかります。貸借対照表の「資産の部」の中に「投資その他の資産」という項目がありますが、これが大きな割合を占め、海外への投資が膨らんでいることが見て取れます。このことからも、日本の製造業がいかに海外へシフトしているかが明らかでしょう。この問題は深刻であり、人びとの所得が伸び悩む現状とも結びついています。ただし、企業にとっては人口が増え、マーケットが拡大する海外の方が利益を生みやすいという事情もあるわけです。
KA:製造業の空洞化が進むことで、日本国内での製造業の雇用も減っているのですね。他に注目しているテーマはありますか?
中條氏:もう一つの重要なテーマは、気候変動問題です。企業がこの問題にどこまで対応するのかが問われています。アメリカでは第二次トランプ政権となり一時的に関心が低下したように見えますが、環境問題に対する意識が完全に失われることはなく、むしろ関心が深まる傾向にあります。
最近注目されているトピックを1つ掲げると、「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)」というものがあります。これは、企業が気候変動の影響をより考慮し、金融機関からの働きかけを受け、環境への対応を促進することを目的とした国際的な枠組みです。日本でもこれを取り入れようとする動きが広がっています。特に日本の金融機関は影響力が強いため、金融機関からの要請があれば、企業は気候変動対策を考慮せざるを得ない状況になります。
さらに、気候変動の影響が企業の財務、つまり利益にどの程度影響するのかを明らかにする動きも進んでいます。この点は、コーポレートガバナンスの観点からも重要な課題となるでしょう。ただし、環境対策をどの程度行うかについては、株主との対話の中で決めるべき問題であり、企業が独自に判断すべきものではないとも考えています。このため、気候変動問題はコーポレートガバナンスの一環として、今後ますます関心が高まるテーマとなるでしょう。
KA:近年、AI技術、特に生成AIの発展が著しいですが、こうしたAIの進化がコーポレートガバナンスに影響を与える可能性はあるのでしょうか?企業経営における意思決定のプロセスにAIがどのように関与するのか、という点についてお聞きしたいです。
中條氏:経営者は将来の見通しを示しながら投資を行うわけですが、未来を完全に予測することはできません。これまでは経営者の経験や勘に頼る部分が大きかったのですが、それではリスクが高くなりすぎる場合があります。
そこで、科学的に将来を予測する方法が求められます。実はこれは私の研究テーマの一つでもあるのですが、将来の見通しをより正確に行うためには、AIの力が非常に有効だと考えています。AIの情報収集力と学習能力は人間の想像を超えています。したがって、AIを活用することで、より精度の高い予測が可能となり、企業の意思決定にも大きな貢献をもたらすのではないでしょうか。
暗記ではなく実践的な観点からコーポレートガバナンスを捉えよう
KA: これからコーポレートガバナンスを学びたいと考えている方々に向けて、アドバイスをお願いできますでしょうか。
中條氏: 今回お話ししてきた内容のまとめも兼ねて、お答えします。
コーポレートガバナンスの存在意義は、企業が株主の利益をどのように高めていくのかを考えることにあります。法律上、さまざまな新しいルールが制定されており、例えば独立取締役の導入やコーポレートガバナンス・コードなど、多くの規則が設定されています。ただし、これらを単に暗記するだけでは面白くありません。重要なのは、それぞれの制度がどのように株主の利益に影響を及ぼすのか、その経路を考えることです。
また、経済学的な観点からルールを理解することで、今後自分の会社に制度を導入する際の参考にもなると思います。このような考え方を大切にしてほしいというのが、まず一つ目のポイントです。
二つ目のポイントとしては、株主の利益を最大化するために企業がどのような行動を取るべきかを学ぶことです。これを理解するためには、ファイナンスの知識が不可欠です。ファイナンスの最新の知見を学ぶことで、より実践的な視点からコーポレートガバナンスを捉えられるようになるでしょう。
KA:実際に勉強する方法として、講座を受けたり書籍を読んだり、あるいは実際の企業を分析してみたりと、さまざまな手段があると思います。特におすすめの勉強方法があれば教えていただきたいです。
中條氏:私自身、長年投資を行っていますが、儲かっているかと言われると正直トントンです。なかなか大きく勝てた記憶はありません。しかし、株式投資というのは、株価の分析を通じて利益を得るものです。そして、株価とは、株主が企業の価値を評価した結果です。その価値が何によって決まるのかを考えることが、ファイナンスを学ぶ良いきっかけになると思います。
ですので、一番早く理解を深める方法は、実際に投資を始めることです。身近な企業で構いませんので、どこに将来性を見出すのかを意識しながら投資を行うことが重要です。特に、過去の株価の推移を分析するテクニカル分析をする方もいますが、私はそれよりもファンダメンタル分析をおすすめします。
ファンダメンタル分析とは、企業の利益や過去の成長率などの数値を基に、あるべき価値(株価)を見積もった上で投資する銘柄を選ぶ手法です。こうした分析を通じて投資にチャレンジすることで、ファイナンスがより身近なものになると思います。
また、ファイナンスの分野では非常に多くの横文字が出てくるため、最初はとっつきにくいと感じるかもしれません。そのため、実践を通じて学ぶのが最も効果的だと思います。私も学生には実際に投資を体験することを推奨しています。
最後に、参考文献として二冊ご紹介します。一つ目は、宮島英昭先生の著書『企業統治と成長戦略』です。企業統治(コーポレートガバナンス)が会社の経済的側面にどのような影響を与えているのかを実証的に検証した本で、とても勉強になる一冊だと思います。
もう一つは、世界的にも有名な『Principles of Corporate Finance』(ブリーリー、マイヤーズ他著)です。これは、ファイナンスの大学院に進む人なら必読の書とされるほどの名著で、現在第14版が最新です。日本語訳もあり、コーポレートガバナンスに関する示唆を十分に学ぶことができます。
KA:今回ご紹介いただいた文献や実際の投資経験を通して、コーポレートガバナンスに関する知識を深めていきたいと思います。ありがとうございました。